ストーリー

「雪って、つめたいと思うでしょ。だけど、雪小屋をこしらえて住むと、ずいぶんあったかいのよ。雪って、白いと思うでしょ。ところが、ときにはピンク色に見えるし、また青い色になるときもあるわ。どんなものよりやわらかいかと思うと、石よりもかたくなるしさ。なにもかも、たしかじゃないのね」

トゥーティッキの雪についての考察(『ムーミン谷の冬』より)

世界でもっとも純度の高い彫刻氷のはなし

ここで使われている氷の物語は、フィンランドの北のほう、ラップランドにある小さな小さな湖に始まります。小さな湖は、小川になり、やがて国立公園を流れていく川、パッラス・ウッラス山を抜けキッティラまで全長35kmのライニオ川へと続きます。ライニオにあるスノービレッジでライニオ川から取り出す氷は、世界でもっとも純度の高い彫刻氷といいます。

 「ライニオ」とはサーミの言葉で「出会いの場」を意味しています。地下に住む妖精エルフと地上に暮らす人間が会える場所という意味での出会いの場。レッパヴィルタの氷の洞窟はまさに、その言葉にぴったりの場所ではないでしょうか。

 ライニオ川の天然氷が彫刻に最適なのは、氷が形成されていくそのプロセスに理由があります。川の流れのなかで少しずつ氷になっていく、これがその秘密です。表面から少しずつ凍っていき、その氷の下で流れ続ける川には非常に細かい気泡が通っています。また川には流れがあることで、ゆっくりと凍っていきます。結果として、ほとんど気泡のない透明度の高い強い氷ができるのです。

 ここでしかない彫刻氷 

 氷の彫刻のための氷は、実は彫刻になるほぼ一年前にできたものなのです。氷は保管庫でひと夏越させ、次の冬に備えます。保管庫で氷を眠らせることで氷がより密になり、さらに強くなって氷の質を上げるのです。

 天然氷には、命が宿ります。それぞれの塊に個性があり、グラデーションや光の反射が異なります。天然氷で制作された彫刻は、光を当てると、氷から光を発するように反射します。これが人工的に作られた氷でできている場合、当てた光はそのまま通り抜けてしまうのです。天然氷には、細かい気泡があるため、それが光を乱反射させます。ただし、気泡が多すぎても、または大きすぎても彫刻には向きません。氷の質を弱めてしまうからです。

 氷は川の氷がもっとも厚く最高の状態にある時期、つまり2月から3月になるあたりで取り出します。外気の温度も重要で、0℃の川から取り出した氷は、気温差の激しい極寒の環境では、外気に触れると割れてしまいます。また外が暖かくても氷の質を下げてしまいますし、さらに強い日差しも要注意で、取り出して一時間もすれば台無しになってしまうのです。

 氷の取り出しには、一冬かけて備えます。厚い氷の中から、もっとも透明な部分を確実に取り出すためです。